森と土壌が吸収・蓄積する
大気中のCO2を削減するためには、地球が吸収できる量以上に排出しないことが重要です。森は、二酸化炭素の吸収源として大きな役割が期待されています。
森にある樹木は、大気中の二酸化炭素を吸収して光合成を行い、炭素を有機物として幹や枝などに蓄えて成長します。光合成を単純化すると、「CO2を取り入れてO2を大気中に送り出し、樹木には残ったC=炭素が蓄積される」という図式になります。と同時に、私たち人間と同じように呼吸をして二酸化炭素を吐き出してもいます。それでも、光合成で吸収するCO2のほうが呼吸によって出されるCO2より多いので、差し引きすると「樹木は二酸化炭素を吸収している」ことになるのです。
資料:「森林・林業白書(平成21年版)林野庁編」
炭素を蓄積、固定するという意味では、森の樹木だけなく「土壌」も重要な役割を果たしています。植物の根や落ち葉など、腐敗した有機物から炭素は土壌に移動し、その大部分が土の中に残ります。有機物を腐敗させる菌やバクテリアなど微生物も、炭素が土壌の一部になるために重要です。土壌は、地上の植物に含まれる炭素をすべて合わせた量の約3~4.5倍、大気中にある炭素量の2倍を超える量の炭素を蓄積していると言われています。
成長期の若い森林では、樹木は二酸化炭素をどんどん吸い込んで大きくなりますが、成熟した森林や手入れのされない荒れた森林(人工林)では、その吸収能力は低下します。スギで言えば、ある程度の体積を持つところまで育った10年~20年生位の若い頃が一生の間でもっとも CO2を吸収し、そこをピークにだんだんと吸収量は下がっていくことになります。極相林と呼ばれる、森全体でそれ以上成長をしない森林になると、CO2吸収源としてはほとんど期待できません。
では、森の木が1年間に吸収・蓄積するCO2の量はどれくらいでしょうか?
資料:「森林・林業白書(平成16年版)林野庁編」
森が吸収・蓄積するCO2の量とは?
林野庁の算出によると、適切に手入れされている80年生のスギ人工林の1本が1年間に吸収する二酸化炭素の量は約14kg。例えば、自家用乗用車1台から1年間に排出される二酸化炭素量(約2,300kg)は、80年生のスギ人工林約160本(約0.3ha)の年間吸収量と同じくらいです。そして、日本の森林が1年間に蓄える二酸化炭素の量は約8,300万トン(平成18年度)程度と考えられています。
また、樹木がCO2を有機物として固定し、幹や枝などに蓄えている炭素量は、例えば、適切に手入れされている80年生の スギ人工林なら、1ha当たり約170t(1年間当たり平均で約2.1t)程度と推定されます。
炭素を貯蔵した木は、伐り出されて木材となってからも、住宅や家具などに利用されているなどして廃棄されずにいる間は、炭素を長期間にわたって維持することになります。
吸収源の森を維持するために
1997年に京都で気候変動枠組み条約の第3回締約国会議「COP3」が開催され、先進国の温室効果ガス排出量を削減する数値目標が国ごとに設定され、採択されました。京都議定書では、2008年から2012年までの5年間において、温室効果ガスの排出量を1990年と比べて少なくとも5%(先進国全体で)削減、日本は6%の削減を約束しました。
同時に、二酸化炭素の排出ばかりでなく「吸収源」という考え方が示され、植林や森林減少による二酸化炭素の吸収・排出量の計上が義務づけられたほか、森林による二酸化炭素の吸収量を削減目標の達成手段として算入できることになりました。日本については、1300万炭素トンの森林吸収量が認められています。
世界全体を見ると、CO2吸収源である森林は急速に減少しています。特に1950年以降、農業用地など他用途への転換や、産業用伐採、自然災害などにより森はハイスピードで失われました。世界233の国と地域を網羅した包括的な森林概観であるFAO(国際連合食料農業機関)「2010年世界森林資源評価(2010年3月発表)」によると、1900年代は年間1600万haもの森林が消失しています。
このように森が失われてしまった場所では、植林をすることで新しい吸収源をつくることができます。ところが、日本はすでに国土の約7割を森林が占め、新たに植林できる土地はごくわずか。成長期の若い森林では、樹木は二酸化炭素をどんどん吸い込み大きくなりますが、成熟した森林や手入れのされない荒れた森林(人工林)では吸収能力が低下します。そのため、今ある森を健全に育成すること、下刈りや除伐、そして間伐を行うことが重要です。
1300万炭素トンの森林吸収量を確保するためにも、森林の適正な整備・保全、木材供給、有効利用など、さらには農山漁村地域の振興や地球温暖化防止および循環型社会の形成など総合的な取組みが進められています。
参考:社団法人全国木材組合連合会ホームページ